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東山地区の豊かな自然

静岡県掛川市北東部に位置する東山地区(掛川市、川根本町、島田市、菊川市、牧之原市)にそびえる粟ヶ岳(532m)の東斜面には、東山のシンボルとして、1辺130mの「茶」文字が描かれています。昭和7年に描かれたもので、東山地区の茶農家さんがお茶を生業として「お茶一筋で頑張っていこう」という決意表明のあらわれなのだそうです。当時は松の木でしたが、その後マツクイムシの被害にあい、ヒノキに植え替えられました。

 

 

東山地区は、山間にあり傾斜地が多く、寒暖差があり、霧が発生しやすく、自然環境に恵まれています。専業で茶園をされている方が多いので、その分茶畑に手間をかけることができ、徹底した肥培管理をされています。

東山の茶草場農法(ちゃぐさばのうほう)

茶畑の周囲には「ススキ」や「ササ」の生える半自然草地が広く分布しています。半自然草地は、人の手で維持管理された草地環境を言い、かつては日本各地にみられましたが、農業や人々の生活が近代化するにともなって著しく減少しました。ここには希少な動植物も多数生息しており、中には絶滅に瀕している種類もあります。

 

東山地区では、この半自然草地を利用した「茶草場農法」が150年以上前から続いています。良質茶の栽培を目的に、全茶農家の方々が手間ひまをかけて草を刈り、乾燥させた後、細かく刻んで茶畑の畝間に敷き詰める伝統的な農法です。これにより、茶の味や香りが良くなると言われています。 東山地区の茶草場は、茶園面積180haに対し、130haと広大です。こういったお茶づくりへのこだわりが、失われつつある里山の草地の生物多様性の維持にも役立っています。

秋番茶の作業が終わると、秋から冬の時期は茶草場の刈り取りと、草を敷き詰める作業を行います。草刈は傾斜も多く大変な作業ですが、

「良い土づくりのためには茶草が必要で、茶草を敷くことで茶樹が元気で、力強い芽が出て、美味しいお茶になる」

ということで、皆様とてもこの茶草場を大事にされています。 

 

 

茶草場農法の利点は、

・雑草を抑える

・夏は保湿、冬は保温効果

・茶草が分解されることで有機堆肥となり、茶の生育や味・香りがよくなる

・肥料持ちが良い 

・水はけが良い(雨が降っても弾力がある) 

等、茶樹にストレスを与えにくく元気な茶樹が育ちます。茶草の代表的なものが「ススキ」で、繊維質が固いが分解されると弾力性が出て、空気が中に入りやすく、茶樹が根っこで窒素を吸いやすいのでとても適しているのだそうです。

 

2013年世界農業遺産に認定

より良質なお茶を生産しようとする茶農家の努力により、茶草場の生物の多様性も保全されてきたことが高く評価され、「静岡の茶草場農法」として2013年世界農業遺産に認定されました。

 

世界農業遺産は、正式名を世界重要農業遺産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems:GIAHS ジアス)といい、2002年(平成14年)、「国際連合食糧農業機関」(FAO、本部:イタリア・ローマ)に始まった取り組みです。農業がだんだん近代化することにより、失われつつあるその土地の環境を生かした、伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化・農村景観などを「地域システム」として一体的に維持保全し、次世代へ継承していこうというものです。

お茶の特長

手間ひまかけて育った茶葉は、葉が大きくて柔らかく、葉肉が厚いのが特長。甘味・コクを引き出し、苦渋味を抑えまろやかさを前面にだす深蒸し製法で製造します。葉肉が厚いため、蒸しをじっくりかけてもホロホロにならず、火入れをしても粉々にならず、良い色合いであり形が残ります。味わいは深み、香り・コクがあり、渋味から甘みへと口の中で広がります。

 

掛川では基本的に一・二番茶を摘み取ったあと、三・四番茶は摘み取らず、秋番茶を摘み取ります。茶農家さんの腕の見せ所は「二番茶」で、一番茶は自然の恵み等で美味しくできますが、二番茶に手間ひまをかけてこそ、一番茶と同じような味わいを維持することができます。